女性創業塾から発信する感性」

7月上旬に女性創業塾の講師を仰せつかった。その際に受講生の発言を数多く求めてみた。一般に女性の創業は、初期投資が比較的少なくてすむサービス業や飲食業が多いとされているが、それは今回も同様だった。

なかでも際だっているのが、「癒し」をコンセプトのどこかに置いたビジネスを始めようとしている女性が多いこと。煙が立ちこめるなかで苦虫をつぶして結果の数字ばかりを追いかける営業会議は男性中心の企業社会が象徴する一場面だが、そんななかから、癒しの発想など出てくるはずがない。

例えば、「サービスでよかったこと」を募ると、「まさかこんなことまでやってくれるなんて…」の感動のエピソードの披露に次々と手が挙がる。これが男性中心の研修会だと、腕組みをしてしばらく考え込んでしまうことが多い。男性は五感を総動員してなにかを感じるのが苦手な人が多いようだ。ぼくが、五感を大切にしたマーケティングを訴え始めた数年前は、男性参加者の反応が鈍かったが、今回の女性創業塾では、うなずきながら共感を示していただいた。

男性的な発想で顧客コミュニケーションを実施するために、個別対応(one to one マーケティング)をしようとしたとする。顧客データベースに集めた情報を分析して活用するのだが、その際に定性的情報をどれだけ集められるか、またその情報をスタッフが我が身に移し替えて対応できるかどうか。言い換えれば、八十八か所をさすらう巡礼者をおもてなしするような接し方ができるかどうかが試金石となる。DMの名簿を印字シールで打ち出しているのなら、もうその時点でダメ。わかっていない。

さて、話を女性創業塾に戻そう。受講者にあなたの独自の土俵は何ですか?と尋ねたところ、「あれもやりたい。でもこれもできる。さらにこんな場合にはこうする」という展開が多かった。つまり女性は、来た人に合わせるという柔軟さ、悪くいえば、受け身で流される傾向があるのだ。

女性の創業で失敗する典型的なパターンは、独自の土俵をつくれないこと。それが当初にあったとしても、いつのまにか「あんな商品を置いて。こんなサービスもお願いね」の顧客に合わせているうちに、事業ドメインが散漫になって強みがつくれないことを意味する。「強み」は事業をやっている側からの表現で、顧客からみれば「(店名、ブランド)といえば○○○…」と○○○に入るイメージのことである(この部分が明確なほど利益率を確保できるのが今日の経営の実践則)。

事業所が良かれと思ってやっていることが「おせっかい」「わずらわしい」などの過剰サービス、迷惑行為として受け止められることもある(大声であいさつする書店の接客に怖いとの意見もあった)。女性スタッフがいる事業所なら、全体の目標と大枠を決めたうえで、一定の枠のなかで彼女たちのしなやかな感性が泳げるように配慮することが経営者の役割かも。女性と男性が得意分野を生かし、苦手な分野を補いあうことで、企業経営や社会はもっと良くなる。


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