説得して売る、納得して買う。どこにでもあるモノでも価値を伝えよう


 前回は、写真とキャッチコピーで直感に訴える情報発信について考えてみた。今回は、文章による説得性を持たせた事例を試みる。広告宣伝で多くの人たちが誤解しやすいのは、「長い文章は読んでくれない。文章は短いほうがいい。メールマガジンもそう」。
 果たしてそうだろうか。生命の次に大切なお金を投げ出すのだから、買うときにはそれなりの覚悟と判断材料が要る。

それゆえ「使用後気に入らなければ返品できる」というサービスを付加することも考えられる。インターネットに限らず、買うという意思決定は、まだその商品やサービスを使わない段階で決めなければならない。未来の使用価値を購入(使用前)時点で判断しなければならないのだ。

モノ余りの時代、いくら安くても不要なモノは買わない。だから「説得して売る」→「納得して買う」という流れをつくる。説得性をもたせるために文章は長くならざるをえない。もちろん長くすることが目的ではないが、必然的に長くなる。

説得力とは、そのモノの価値を訴えることである。そして信頼性を高めるためには、売り手自身を信用していただくことが当然となる。長所ばかりではなくモノの欠点、背景にある物語、哲学、理念、こだわりを伝えたい。文書を読み終わる頃には、「買いたい、必要だ」と感じていただければいい。

技術的には、数行ごとに段落を空けること、読みやすい位置での改行、視線の移動距離を少なくすること(一行を長く取らないことを意味する。新聞は一行12文字程度であるので文字ばかりでもそれほど読みにくく感じない)。

さて、どこにでもあるボールペンを事例にして説得を試みよう。話の内容は実話だが、販売元に迷惑をかけてはいけないので、商品名は空白にしてある。また、写真は割愛している。

◆まだあった、技術者の誇りが感じられるポールペン物語〜これでたった210円?

メモを取るボールペンに求められることは?

ぼくは、筆記具を大切にしている。「書く」「メモをする」ことが仕事の一部となっているためだ。メモに必要なのは、ポケットにさせる軽い筆記具であること、書きやすいこと、速乾性であること。 

書きやすいという点では、グリップに工夫をした500円前後のボールペンが各社から出回っている。腕の疲れを軽減するというのが売り文句だ。ただ太さが災いして細かいペン先のさばきがしづらい。きれいな字が書きにくいのだ。

重量も20グラム近いし太くてかさばるため、ポケットにさしても快適ではない。もともと簿記などの長時間筆記用に開発されたと思われる。ぼくも経理の仕事をしていたことがあって発売当時に買ってみた。が、しっくり来なかった。

マイナス20度でも書ける?

ところが、いいポールペンが見つかった。「○○のユニ・パワータンク」。書き味がなめらかで字がくっきりしてみやすい。上向きでも書けるため、病気やけがでベッドで寝ている人も寝たままで書ける。さらに濡れた紙にも書ける、マイナス20度でもインクが出る。そのうえ速記してもかすれないという特徴がある。

仕事で経営者やスタッフと面談するとき、2時間程度でノート10ページ程度はメモを取るが、この製品はまったく問題ない。

地図とコンパスを頼りに藪を進んでいると、汗で紙が湿って書きづらい。また、気温が低い冬の登山ではインクがかすれて出なくなる。そんなときにもこの製品は対応できそうだ。野外での行動や制約ある条件での筆記が必要な人には朗報だ。

圧縮空気がつくりだすスケートリンクのような書き味

その秘密は3000気圧の圧縮空気がインクを押し出しているからとのこと。書き味が油性なので書いてすぐにこすっても大丈夫。重さにして12〜14グラム程度で持ち運びもしやすい。握ってみると、コストをかけていないはずなのに、独特の形状のグリップもしっくりなじむ。重心が低いせいか動かしたときに軽く感じる。

グリップの形状は2種類ある。すぐにさっと使うときにはノック式、机上などで事務用品として使うときには、差し込みノブが取り外せるキャップ式がおすすめだ。ぼくは、取材や車内でのメモなどすばやく使うときにはノック式の黒。校正や朱入れ用には、キャップ式の赤を使っている。

欠点がひとつだけあるとすれば、その日最初に書き始めるときの1センチぐらいがかすれる。おそらくは圧縮空気が押し出すというメカニズムなので筆圧というきっかけが必要なのだろう。しかし連続して書き出すと、スケートリンクで遊んでいるような無敵の世界となる。実用上問題にはならない。

文具店では売り切れ続出?

不祥事で○○グループ全体のイメージは悪くなっている。しかしこの「(製品名)」はいい製品だ。予備を買っておこうとしたら売り切れていた。宣伝もしないのに生活者はよく知っている。何店か文具店めぐりをしてようやく買い足した。

たった210円、されどモノづくり

驚くなかれ、これだけの性能のポールペンがたった210円である。ペン軸は再生樹脂を使用したもので、使い捨てではなく換芯も用意されている。もちろんインクの減りもひと目でわかる。ぼくは、日本の技術力の優秀さに感動した。安価な一本のポールペンだが、モノづくりにかける技術者の誇りが感じられる。大切に使いたい。

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この商品はどこにでも売っている。だから情報発信しても意味がない、と考えたらそれは違う。どこにでもあるモノであっても、そこに光を当て、使いやすいもの、いいものを独自の視点で選んで提供するという経営姿勢を人々に見せていることになる。そのためには、ウソではなく、そのモノに惚れ込んでいること。これが出発点だ(ただし、情報のなかみにある程度の客観性がないと景表法に抵触する怖れあり)。

この文章を文具店の担当者がブログに掲載したとしよう。ほとんどの人は商品が欲しいと思っても、近所の文具店で買うか、カタログ通販で買うかもしれない。しかし一部の人は、例えどこにでもある商品であっても、決して安売りしなくても、この情報を教えてくれた店で買うかもしれない。「共感」。いまはそんな時代である。

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