「2つの土俵」

 知事選が近づいてきた。今回の選挙を与党と野党の代理戦争と捉えたマスコミが少なくない。しかし3人の候補者は脱政党を表明している。政党色が出れば勝てなくなったからである。裏を返せば、組織と支持者だけがおいしい汁を吸う政党選挙の構造に嫌気がさしたからで、このままでは日本は立ちゆかないぞという生活者の危機感、自己防衛反応である。きっかけは、吉野川第十堰の住民投票に代表される市民のパワー。これまで政治嫌いであった人たちが、地域の自立と自律をかけて立ち上がったことで徳島はきっと変わっていく。

 地域主権の流れからすると、政党はもはや蚊帳の外に置かれている。住民の意思表示が大きな求心力となり、各政党は存続をかけて政治力学のなかでそれぞれ動いた(動かざるを得なかった)だけ。だから冒頭のマスコミの論調は本質を捉えていない。

 どの候補者の主張にもあるのは「県政のチェックを含めた情報公開と住民参加による行政、自然環境を活かす政策」といった項目で、そこに生活者ニーズの最大公約数があると見ているのだろう(ただしキャッチコピーや選挙戦術に至るまで酷似しているのはいただけない)。

 これまで政治は住民の幸福というニーズに対応していなかった。生活者の声に耳を傾けたうえで、政治・行政が生活者に提案することが重要である。例えば、上勝町のゴミ33種類分別がそれ。政治や行政が提案し啓発していくべき課題は山積している。
 今回の選挙は、本質を見抜くことができるかどうかで有権者も試されている。自分の意志で候補者を判断し、投票には必ず行って欲しい。

 さて、(社)中小企業診断協会徳島県支部では徳島県からの受託として顧客満足向上支援事業を行っている。市場調査を無料で行う本プロジェクトは今年11月までの期間限定で、中小企業診断士を中心に6名の調査員が班をつくって、アンケート調査、通行客調査、グループインタビューなどを行い、それらをエクセル(クロス集計を含めて)で集計したりキーワードから方向性を抽出したりして報告するというもの。

 これまでさまざまな業種からお申し込みをいただいている。
 とある飲食店では、新メニューを増やそうと来店客アンケートを行ったところ、そのメニューは支持されず、別の方向性が見出された。顧客は店の持つイメージや雰囲気を漠然と描いている。新メニューはそれらと相容れなかったのだが、この飲食店は調査によって方向性にヒントを得たといえるだろう。
 ある呉服店では、従来顧客の高い満足度が判明したが、やわらかい接客と新規顧客の獲得に課題が残った。ということは、これまでとは異なるアプローチ、新しいイメージ戦略、別の角度からの情報発信が必要ということで、突破口を見出そうと試行錯誤している。
 活気がないといわれている中心地区の商店街では、時間帯による通行客の属性や入店率調査、来街者アンケートを実施。生活者が求める商店街像をあぶり出そうと検討を加えている。以上は調査の一例。対象は、県内の企業、商店、商店街、第三セクターである。

 経営にも2つの土俵がある。ひとつはお客が求める土俵で、言葉にすれば「顧客ニーズに対応する」。もうひとつはこちらが提示する土俵で「ニーズを創造する」。「ニーズに対応する」土俵は、お客様の土俵にこちらから上がっていくものでどちらかといえば後追いの感があり、競争が激しい現在では利益が出にくい。

 一方「ニーズを提案する」土俵では、お客様にこちらの土俵に上がってもらうもので、それが浸透するまでに時間がかかるが、独創性が顧客に支持されれば収益力は強化される。

 アンケート調査は主として前者の用途に実施されるが、ぼく自身は、新しい提案のヒントを探るきっかけとなればと考えている。限られた経営資源、顧客の持つイメージ、業界の事情や経済環境を考慮しながら、絞り込んで新たなコンセプトを提示することが未来の利益につながるからである。

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