「第二創業」
 事業を始めて数十年。自社の所属する業界が伸び悩んでいる。このままでは成長はない。従業員の昇給はできないし、なにより当社にとどまっていてはひとの成長がないと従業員に見限られているような…。そんな感想をお持ちの経営者は少ないと思われます。

 それは当然です。かつてカラーテレビが家に来たとき、その感激はしばらく続いたのではないでしょうか? でもいまはモノあまりの2005年。買って感激するようなものはほとんどありません。地価はこれからも下降基調が続くでしょうし、人口の減少(とりわけ生産人口)が追い打ちをかけ、国家財政に、ひいては家計にずしんとのしかかってきます。そんな時代に、従来のような事業経営を続けていけるはずがありません(断言します)。

 ほとんどの市場が成熟している現在、戦略は差別化が主流です。
 差別化とは、以下のような方策です。
  • 専門化する(絞りこむ)
  • まとめる(関連商品をまとめて提案)
  • より早く届ける(待たせない)
  • こだわる(独自性)
  • 社会性を打ち出す(社会、環境への使命感)
  • 単位を変える(販売の単位、見方を変える)
  • つなぐ(紹介、コミュニティ)
 こうなると、一人ひとりの既存客の存在は貴重となり、顧客の属性に基づいた個別の提案による販売促進やコミュニケーションによって顧客の囲い込みをはかられます。

 一方で成熟した市場では、従来のやり方のマイナーチェンジではほとんど魅力が追加されないところまで来ています。そうなると、新分野に進出し、経営革新を行うことになります。それがを第二創業です。

 そのときに、伸びている分野に投資をしてうまく行けば、「ペイする」(一定期間内に得られる資金が投資額よりも多い)、「リターンが多い」(良好な投資利益率)、「リスクが少ない」(債務償還年数が短い)ということになるかもしれません。その伸びている市場を、経済産業省は「成長15分野」として示しています。

 成長分野は、雇用の増加が大きい、市場の成長が著しいなどの特徴がありますが、具体的には、新製造技術分野/情報通信分野/環境関連分野/住宅関連分野/医療・福祉関連分野/バイオテクノロジー関連分野/人材関連分野/新エネ・省エネ関連分野/生活文化関連分野/ビジネス支援関連分野/海洋関連分野/都市環境整備関連分野/航空・宇宙(民需)関連分野/国際関連分野/流通・物流関連分野が挙げられています。

 建設業などある程度の事業規模があって剰余金、借入担保力があれば、本業が順調な際に成長分野に投資することは考えられます。本体が危うくなってからの第二創業は遅いので、好調な業績のときに3年後を見据えて計画を立案する必要があります。ただし成長分野に進出する場合、競争が激しく資本勝負になることもあります。
 
 いずれにせよ、新分野に進出することは、市場(顧客)を選び、短時間で他社と比べての競合優位を築く必要があります。つまり、ヒト、モノ、カネ、情報の経営資源が大きく動く(動かす)ということです。再分配して集中させると言ってもいいでしょう。となれば、経営資源の大きさ(事業規模、資本金、剰余金、製品の数、支店数、従業員数など)で決まるのでしょうか?

 違います。決まるのは経営資源の質です。大きな経営資源は動きが鈍いのです。高い固定費を抱えてリスクを冒すことはできないし、なにより強者の戦略として、無理をせず王道を歩んできたのですから、変化を創造するリーダーシップや社内風土がありません。

 実態は、経営資源の量ではなく、ソフトな部分が勝敗を分けることが多くなってきました。経営資源が大きいことはむしろ足かせになりかねないことに、多くの大企業が気付いています。社内ベンチャーなどもそれを打破する試みですが、それでもなかなか大企業病から脱却できないのです。

 ただし、自社の経営資源がほとんど活用できない進出、例えば、印刷会社が飲食店のチェーンを始めるとき、従来の経営資源が活用できないので、新たな創業となります。第二創業というのは、従来の経営資源を組み合わせて新たな強みをつくることですから、販売力や技術力などの従来事業との相乗効果、学習効果を活用できる点が新規創業との大きな違いです。

 創業でも第二創業でも、市場(顧客)の潜在ニーズを探す点は同じです。その方法は、アンケートやグループインタビュー、テストマーケティングなどを自社で行うこと(仮説を立て、自分の足でかせいで検証する)であって、コンサルタント会社の高価で分厚い報告書はあまり役に立ちません。潜在顧客のニーズを探るとは、顧客に聴くことです。

 ただし、いかに本を読んで戦略を知っていても鋭い洞察力、戦略構想力が不可欠でそこに実践派のコンサルタントの出番があります。この部分は、まさにオーダーメイド。高度な論理性、因果関係の分析と直感、洞察力が融合した属人的な資質に負うところがほとんどです。大手の戦略系ファームが高価なだけで役に立たないことが多いのは、サラリーマン的な社員コンサルタントにメソッドや戦略に当てはめさせているだけだからです(実際に大手著名コンサルから変更された事業所様は数社あります。

 顧客のニーズとは、顧客の利益のことです。それを実現するためには、自社の経営資源の棚卸を行い、強みとそれを構成するスキルを洗い出します。つまり顧客の利益(魅力)と自社の強みを一致させること。それを行うのが経営資源の選択と集中の真の意味です。

 ここで顧客の利益を実現するために、足りない部分が見えてきます。「もう少し販売部隊が揃っていたら…」「物流ネットワークの構築に手が回らない」。すなわち「あれもこれも自前」でやっていたら、永遠に赤字はなくならない構図に気付いたとき、自前で構築するよりもコストと時間がかからず、すぐれたノウハウが手に入るなら、そうすべきだということがわかってきます。外注、アウトソーシング、提携―。そのときどきの状況でどれが最善かは違ってきても、自分の強いところを薄めないよう、自社の独自性に関わらない部門や獲得できないが必要なスキルを外から借りだしてくるのです。

 自社の経営資源の分析には、競合すると思われる企業の強みの分析を併せて行います。なぜなら、強み、弱みはあくまで相対的な価値判断だからです。極論すれば、競合のいない市場であれば、価格決定権(=利益率決定権)はあなたにあります。

 成熟した時代における差別化戦略が、顧客のニーズに対し、競合よりも優位な製品・サービスを継続的に提供することにあると定義するなら、「顧客」とはだれ? 潜在ニーズとはなに? 競合優位とどんな状態? と問いかけ続けることです。
 

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