うどんの最後
小さな漆のお碗にうどんと薬味が盛られていた。
それはふたりの子どものためにお母さんが用意したもの。
ところが子どもはすぐに飽きてしまい、
箸を放り出すとテレビゲームに夢中になってしまった。
(うどんがつらいつらいって泣いてるよ)
(だって欲しくないんだもん)

台所のゴミバケツの中でそれは鮮やかに光っていた。
白いうどんは肌色に染まって湯気が立ちのぼっていた。
うどんになる前は小麦粉や海の塩であったが、
今では、お碗の中で頭と尻尾をくわえあったウナギのように横たわっている。

それはほんとうに艶やかで
美しく生きている存在感を主張したので、しばらく見とれていた。
ハクサイの切れ端がひっくり返った亀のように
背中を丸めてもがいていた。
椎茸は全部食べられたのか、見えなかった。
出汁昆布もうどんの下になったのか見えなかった。
ゴミバケツの中で生ゴミになった今でも、
食べられることを誇りにしていた彼らの喜びが
無邪気に見えるようだった。

そのうち湯気が出なくなった。
表面の水気と潤いは消え、
どちらかというとしなびた質感に変わった。
つい数分前までの生の輝きは失せていつもの生ゴミに戻った。


▲戻る