月夜浜/新良幸人とアコースティックパーシャ

誰が聴いても心が溶けてゆくような音楽があるとしたら、この「月夜浜」はその一枚。アコースティックパーシャは、石垣島は白保出身の新良幸人が結成したグループ。

2004年4月に石垣島を訪れたとき、四国を出る前にレンタカーを予約しておいた。それが空港近くにあるBe-1レンタカーという店。市街地から離れた場所にある軽井沢倶楽部に滞在し、ヴィッツで島のあちこちに繰り出した。天下の名勝川平湾は人でいっぱいだが、そこから北上すると景色は一変する。ほとんどクルマの通らない道から見えるのは、珊瑚礁を見下ろす草地でのどかに牛が草をはみ、トウキビ畑に土の道が続く風景。そんな道をたどって坂道を下りていけば誰もいない島の北部の海。

親切なBe-1レンタカーでは、ドライブ用にカセットテープを貸し出してくれる。そのなかに新良幸人があった。さらに後で知ったのだけれど、このアルバムにコーラスとして参加している金城弘美さんはBe-1レンタカーのスタッフだとか(4/21の貸出ノートにはぼくの名前が載っているだろう)。彼女は数年前の島内の民謡大会で優勝した歌い手。彼女の魅力の片鱗が十分にわかるのは「つぃんだら」。歌ごころが伸びやかに舞い上がると生で聴く人はどうなるのだろうと思ってしまう。

二人の声を活かすシンプルな生の楽器もいい。ここでの三線は沖縄民謡のおみやげ伴奏ではなく、歌い手に寄り添い、ときに歌い手を越えて存在を響かせる。それでも音楽は決して肩を張らないのに島にどっしりと根を下ろしたゆとりがたまらない。太い、飾らない、虚勢を張らない、けれどひたすら歌に埋没していく新良幸人がいい。「とぅばらーま」は白眉。振り絞るような新良幸人に金城弘美が官能的にからんでいく。男と女のいのちが直截的に躍動する。素朴で力強い歓びに満ちて。

このアルバムは一般のCD店で入手できない。アマゾン書店でも扱いがない。沖縄には通信販売してくれる店がいくつかある。録音は極めて鮮明で技術スタッフの力が込められているようだ。必要最小限のマイクだけを立て、小細工せずに一発で録った感じ。それが音楽と録音の両方に生命力を与えている。

とっておきの泡盛「瑞泉のうさき」をそのまま飲もう。

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