ためいき駆け上がれば「ティンジャーラ」

(神谷千尋のティンジャーラについての感想です)

夜の帳を開いてたゆたう銀河を見上げて自分を見つめて誓う。そんな場面を音楽にしたら、タイトル曲「ティンジャーラ」(沖縄の言葉で天の川の意)になる(この曲を聴いてあなたは夜明けに何を感じる?) 魂が乗り移ったかのような神谷千尋の一瞬のきらめきが音階を駆け上がってため息のようにティンジャーラに橋をかける。

最初のアルバム「美童しまうた」では部分的にはっきりしなかった発声があった。少しの時を経て言葉の存在感が増している。透明感のある歌声は変わらねど、しっとりとふくよかに磨かれ、うたの海を自在に泳ぐ。それなのに秋の空の寂しささえ漂う。息つく間もないほど楽曲の密度が濃い。提供しているのは沖縄の作家たち。
となどなと夜が染まりゆく…
哀しいアヤハベル何を想う…
願いほどいた月の夜…
空が知らない雨が降っていた…
華ぬ真盛いぬ 美童ぬ旅路 道輝らす太陽ぬ いちんあらば…
空の高さ、風のざわめき、雲のたゆたい、海の輝き、水の表情、樹木の匂い…。自然とともに生き、自然に映し出された人々の心をうたい、かつてこの島で繰り広げられた過ちの記憶をたどる。紡がれた言葉が楽曲の随所に散りばめられ、清らかな水が胸を滑り落ちていく秋が空間にあふれ出した。

キーワードは「はべる」(蝶)。パッチワークのようにあちこちに散りばめられている。光に向かって飛翔するその姿を思い描けば心が大きくなる。誰もが大空へ舞い上がることができる。なのに舞い上がる人が少ないのは、自分が飛べると思っていないから。やればきっとできるよ(これはぼくが伝えたいこと)。

それにしても「あやはべる」(綾蝶)のような響きの言葉が日本にはまだあったなんて。沖縄の言葉と音階、楽器を使っていてもそれで売る音楽ではない。魂に響かせたい。

神谷千尋「ティンジャーラ」

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