商店街、一店一品運動で未来を拓く

大切な商工会の存在と意義

 商店街の活性化を商工会の青年部のメンバーが話し合うとすると、カード化はどうだ、共同ホームページの開設はどうだ? プレミアム付の商品券がいいかも、人寄せのイベントをしよう…などとアイデアは次々とわき起こる。

 しかし商工会や商店街とて経営資源は限られている。沸き上がってきたアイデアに対し、その実現に向けては予算の裏付けが必要である。国や県の助成制度でなにか使えるものはないかと経営指導員の人たちも苦労していることだろう。
 地域の商店街の活性化に商工会が果たす役割は決して小さくない。しかし定型化している業務に追われて、企画や計画立案に費やせる時間が取れないというのが多くの経営指導員の悩みではないのだろうか。
 商店街の活性化は、何も商店主や商工会だけの課題ではない。まちづくりはもちろん、農林水産業や観光、町内福祉などの視点からこれまでばらばらに行っていた地域づくりを誰かトータルプロデューサーのコーディネートのもと、異業種が連携、協力して実施する時期に来ていることは間違いない。

行政の側面支援は?

 その際に行政が積極的に参画してくれない、側面支援が欲しいなどの声も聞かれる。しかし行政主導でやれば、うまく行かないことを行政マンは知っているので、地域の自主的な動きに期待している。しかしいざ自主的な動きを見せてもなお行政が支援しない場面を数えきれず見てきた。
 確かに行政が支援するのであれば、受益者は誰か、誰が負担すべきかといった公共性、公平性の視点。乏しい財政から支出を議会に認めてもらう過程。各種法令をチェックし、自治体の計画との整合性などさまざまな配慮が必要となってくる。
 しかしそれをあえてやるのが使命であると思う。市民のプランに共感したなら、できるだけのことはあがいてみる。プランの粗探しをするよりも、どうすれば成功するか、何を工夫すればいいのかを考える。そんな職員が一人でもいる自治体は活性化している。

手法よりも大切なこと

 地域の商工業者へ話を戻す。どの手法が消費者に受けるか、どの商売、どの販売法が売れるかという議論に集中しがちだが、大切なのは、これがいけると思ったら全員一致でやってみること。そこが最初の壁であり突破口である。まず動く、それもなるべく多くの人の合意で動くこと。それに尽きる。動く過程でさらにいいアイデアがいくつも出てくる。

 企画の段階から商工会、とりわけ次代を担う青年部が中心となって参画して動きたい。経営革新こそが今の合い言葉である。高度経済成長期に成功した大量生産の松下電器や土地神話にバックに事業を拡大してきたダイエーなどカリスマ創業者のやりかたは今日では通用しない。過去の成功体験の呪縛から逃れるためには、ゼロからの出発がいい。商工会では、名誉職的な立場の人たちが若い人たちに実権を譲り、「良きにはからえ。後方支援をする」という姿勢になれば動きやすくなる。もちろん年齢に関わらず柔軟な考え方ができる人もいる。

 ぼくが考える商店街活性化の突破口はこうである。商店街の弱点は、品揃えが悪い、欲しい商品がない、買わずに出にくいといった個店の課題に加えて、例えば30代のファミリーにとって子ども連れの買い物に不便であるということがある。何も工夫をしなければ、常時イベントを行い、品揃えが充実していて駐車場が広くワンストップショッピングができる大型店に叶うはずがない。
 地域密着という言葉が生き残りのカギだとすれば、それをどう再定義するかが問われている。

 
地域密着とは…

 地域の人たちにとって商店街が身近な存在でなければならない。ところが、商店街は近くて遠い存在である。特に地域の商店街では「買わずに出にくい」というのが意外に大きなマイナスとなっている。「欲しい商品があるかどうかわからない」「しかし入店すると買わずに出にくい」「だから立ち寄らない」という悪循環になっている。商店主が考えがちな「価格勝負と駐車場がないこと」であるが、これらは不満要因であり、満足要因ではない。これらを売れない言い訳にすることだけは止めておこう。

 地域の生活者にとって商店街が宝物のような存在となればいい。そのための手法はいろいろあるが、どの手法を選ぶかは問題ではない。繰り返すが、「何のためにするのか」「全員が一致協力してできるか」のほうがもっと大切である。

 
商店街は買い物の宝探しの場

 地域密着の項に挙げた商店街の弱点は、発想を変えればプラスになりうる。ちょっと欲しい商品が点在する構図はなにやら海水浴の宝探しに似ている。大型店に置いてある大概の商品は地元の商店にある場合が多く、場合によっては価格が安いことさえ珍しくない。しかし生活者は食わず嫌いで地域の商店街は買い物の対象とみていない。

 
一店一品運動のすすめ

 どの店にも広告はしないが、あまり知られたブランドでなくても隠れたおすすめ品というのがあるはずである。無名ブランドであるが、履き心地がいい靴。しかも耐久性が高く、デザインが飽きが来ない。皮革もいい材質を使っているが、価格は1万円と手頃である。それでいてこのブランド(商品)は消費者に知られていない…という構図は靴店ではあるかこうした事例は、どんな業種でもありうる。

 小売店のいいところは、商品やブランドを自由にスイッチできることである。良い品を発掘してその良さをひたすら伝えるという商売の原点をないがしろにしたままで、量販店と対抗する価格勝負のチラシを打ってきたのが現状だろう。
 幾千もの商品の大海から、これぞと思う商品を一品だけ選び、それを誠意を尽くして地域の生活者に伝える。それを商店街が一丸となって行う。商店自らが宝探しをして発掘しなければ、地域の生活者も地域の商店街から宝探しをしたいとは思わない。まず、モノ選びを徹底して時間をかけてこだわってやってみるべきだ。これを「商店街、一店一品運動」という。
 → 一店一品運動の情報発信の例

 プレゼンテーション(キャッチコピーやPOP)、商店の選定のコツ、情報発信などのマーケティング要素はもちろん、消費者心理の勉強、統一的な動き(商店街アイデンティティ)、ITの活用(ITの側面支援についての助言)に関しては、精通した熱意あるコンサルタントの支援が励みになる。プレゼンテーションと心理学という2つの要素は、商店にとって何より大切な要素なので、きちんと掴んでおけばあとあと応用がきく。
 
 地図を片手に生活者が商店街を廻るというのは、なにやら隠れた讃岐うどんの名店(ディープな店という)めぐりに似ている。わざわざ遠方からクルマでやってきては、地図を頼りに店を探し出してうどんのはしごをする。それが楽しくてみんな出掛けている。そんなわくわく場面をつくりだすわけだ。

 徳島なら、京阪神の百貨店のバーゲン時にわざわざ高速バスに乗って人々が流出し、中心商店街はガラガラになる。週末ともなれば、高松の夢タウンなどの大型商業集積に繰り出す。表面だけ見ていれば勝てないが、それらの大型店にはない要素、つまり地域密着を今流に再定義して、創意工夫と熱意で未来を切り開きたい。その最初のきっかけが一店一品運動なのではないだろうか。

 これに続くさまざまな仕掛け、しくみづくりについては、腹案はあるが、実際に手がける商店街のために温めておきたい。それさえもコンサルタントが考案して実施をお願いするものではなく、実行部隊の会議を活性化させれば自ずと妙案は出てくるものだ。

▲戻る