カブトムシの夏が終わる
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人里近くの山を里山と呼ぶ。その里山のくぬぎの樹にくっついて、飽きることなく口のブラシを動かしてるその虫は──? 「えいや」 振り上げた気合とともに投げ出した。相手の身体の下にすばやく角を入れてすくいあげる。 今度は別の奴が近寄ってきた。 「えいや」 また投げ出した。 今度は茶色い図体の奴が来た。固い羽に二本の穴が空いているのは争いに破れた証。それでもゆずれない。 夜行性だけど、お腹が減ると昼間からノコノコ出てくる。クヌギの雑木林が大好き。でも樹液が出るところは限られている。だから激しくぶつかりあう。オスは毎日が闘い。いったいいつ蜜をすっているのだろう。 オスはメスより早く羽化する。オスだけの世界が数日続いたあと、メスが地上にはいあがってくる。やがてメスも樹液にたどりつく。オスとメスが出会えるのは今しかない。オスは激しく他のオスを追い払いながら、自らの子孫を残すべく求愛する。ひとりのメスが産むタマゴの数は三十個程度である。 クヌギには、クワガタムシ、スズメバチ、カナブン、ハナムグリやチョウの仲間も集まってくる。ノコギリクワガタは体長5センチに達する。雑木林は、村人が生活のために手入れをしている半ば人工の森。この昆虫は、朽ちたほだ木や、ワラの堆肥を利用して産卵する。 そして九月。毎日闘いに明け暮れた体が仰向けになるときが来た。地上に出てひと月、夏の終わりを告げるヒグラシの声とともにカブトムシの夏が終わる。次の年には彼の子どもたちが同じことを繰り返す。人の営みの添え物を頂戴して生きるカブトムシは里山にいる。 ▲戻る |