歌姫ちとせ---生きてこそのメッセージ
 「ワダツミの木」がヒットした元ちとせ。メジャー移籍前のミニアルバム2枚を聴いてみた。

 1枚目は内外のアーティストの作品を集めたスタンダード集「Hajime Chitose」、2枚目はオリジナルで構成された「コトノハ」。それぞれ6曲と5曲が収録されている。

 深沈と佇む深い森に分け入るように目を閉じて手探りで進んでいく。陽気にスキップして小径を行けば、森のなかに突然陽光が降り注ぐ草原が現れた感じ。なんでもないさと笑い飛ばしてさらに進んでいくのだけれど、なぜかふと喧噪がなつかしくなったり、ちっぽけな自分を感傷的に眺めたり、そうかと思えば、はるかな空を自由に飛翔していたり。

 ああ、アジアの歌姫なんだって。英語の発声さえアメリカナイズされず、すでに彼女の体温であたためられている。自分の国の言葉で歌っていても琴線に触れないうたが多いなかで、英語をうたってもちとせ。どの歌をうたってもちとせ。あふれてしようがないうたごころ。はらはらとこぼれるうたごころ。

 2枚のアルバムの全曲を聴いてみよう。
☆「Hajime Chitose」/2001.3.9発売
AUGUSTA RECORDS、TGCS-1096
1,575円(税込)
☆「コトノハ」/2001.8.1発売
AUGUSTA RECORDS、TGCS-1190
1,575円(税込) 
60〜70年代を簡素な編曲に乗せて等身大のちとせが浮かび上がる。

◇「Birthday」
短い声の揺れ、うなるような小節、そしてダン、ダン、ダン…と弾むような鼻にかかったような声。気持ちよくくすぐられる。


◇「名前のない鳥」
 あてもなく彷徨う。誰もが思い出すこんな感覚。若さゆえに情熱が空回りしたあとのぽっかりとしたむなしさ。それらを風のようなさっと流していく。だからいっそう寂しく響く。

◇「Sweet Jane」
 小市民を笑える? ほとんどの人は小市民に憧れているんじゃない。そう思いながらも彼女の声が甘くささやくように繰り返すSweet Janeと。 






◇「Little Wing」
 自分を励まし抱きしめてくれる妖精のような存在を必要としている21世紀の人たち。それは永遠の美を閉じこめた魂だろう。もう一人の自分が抱きしめてくれるかもしれない。ギターだけのアレンジにちとせがけだるく声を乗せていく。

◇「冬のサナトリウム」
 壁でザビエルも泣いていた…。アルバム中でもっとも叙情的なのは、このあがた森魚の名曲。ちとせの高い音は生の青春を少し包んでみせてくれるけれど、曲が終わったあとも音楽は響いているのはなぜ?
全曲オリジナル。ちとせ作詞も交えて歌の世界をいっそう羽ばたく。

◇「コトノハ」
 ちとせの作詞。ライラックの空(北国」と赤いデイゴの風(南の島)が同じ夢を見る。短いけれど彼女のメッセージをストレートに。

◇「約束」
 旋律が彼女の声を低いところに縛る。それでも彼女は伸ばす音を揺らしながら訴える。そうしていつしか旋律は上行音程で彼女を解き放ち、一瞬訪れた空の高さに万感を込めて羽ばたく。

◇「竜宮の使い」
 ガラスの瓶にたわいない願いを詰めて流した学校の授業。忘れた頃に返信が返ってきた。「メッセージ、確かに受け取りました…」。繰り返す波のようにちとせの高音に身体ごと浸る。なんどもなんども…。一瞬波が静まりかえって息を飲むが、「その昔、人だった事も忘れた深海魚」と結ぶ。この2枚のアルバム中もっとも惹かれる曲。

◇「精霊」
 あなたの命は繰り返しそして生かされている…と呪術の語りかけ。やおよろずの神とともにあった日々の営み。こんな歌はちとせでなければ歌えない。「繰り返し…」のところで声が裏返りつつ微妙に揺れる。

◇「三八月」
 「揺れる灯火はやさしいあの眼差し思わせる…」とは、ちとせの作詞。その瞬間遠い国に連れ去られ、次の瞬間「いつまでも忘れないから…」と岩にしみこむ水のよう。「愛しい歳月は…」が「愛しい愛しい月は…」とも聞こえる不思議。声に誘われて産土の神が降りてきたかのよう。
 この2枚のアルバムは、まるで紅白1対となった千歳飴のよう。甘くふくよかでそれでいてさらっとして。
 けれど全体を貫く「生きる」というテーマが見えてきた。現実から逃げてしばしの慰めに浸ってもそれは真実の平穏ではない。闘ってこそ、生きてこそ、感動があり、その向こうに癒しがある。それがちとせの歌のメッセージ。

→ 奄美、もっと知りたい

 7月10日にはアルバム「ハイヌミカゼ」が発売されました。
 お買いあげ金額1,500円以上は送料無料でアマゾン書店から発送してくれるそうです。
 ↓クリックして注文できます。
Hajime Chitose
\1,500
コトノハ
\1,500
ハイヌミカゼ
\2,913