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「南阿波海部の新しい波〜エコツーリズムによる地域づくり」から
第1章 南阿波・海部を知る

中小企業診断協会徳島県支部では、1998年10月23日に登録更新研修会の一環として「県南観光商業は飛翔できるか」と題してパネル討論を行った。県南とは、徳島県南部地域の一般的な呼称であるが、ここでは海部郡を指している。

パネリストには徳島県の担当者やシンクタンク研究員、地元の商業協同組合の事務局長をお迎えした。

この時に議論された内容と、アンケート調査結果が活性化支援事業をすすめるにあたって指針となるのではないかと考えた。そこで、このパネル討論の議論を本報告書の導入としたい。

1,パネル討論『県南観光商業は飛翔できるか』

主催 : (社)中小企業診断協会徳島県支部主催(登録更新研修会)
日時 :  1998年10月23日(金)
場所 :  徳島県教育会館5階ホール

パネリスト(敬称略,順不同)

・小谷 敏弘(徳島県企画調整部 新長期計画推進室係長)
・大谷 博(財団法人徳島経済研究所 主任研究員)
・岡田 齊(海部商業協同組合 事務局長)
・向井 眞一(社団法人中小企業診断協会 徳島県支部長)

コーディネーター
・平井 吉信(中小企業診断協会徳島県支部)


(1)パネリストからの報告

平井/ 最初にパネリストからご報告をいただき、スライド映像で県南を紹介した後、討論に入るが、診断士としての経験豊富なフロアの皆さんからのご意見も随時受け付ける。まずは、明石海峡大橋開通後の徳島の経済について、徳島経済研究所の大谷さんに伺いたい。


 明石架橋効果は観光面


大谷/ 徳島経済研究所で分析している明石大橋開通後の県内景気の状況、それから開通後の県内の観光面の変化について報告する。

 まず明石大橋開通後の半年で県内の景況はどう変わったかであるが、公共投資については、4月から夏場まで県内では前年を下回っていた。8月末から10月までは総合経済対策によって前年を上回る公共投資が続けられている。一方、住宅投資については、買い控えによって前年同期より大幅な減少を続けている。貸家については夏場の7月から若干回復してきたようだ。個人消費については、家電・パソコン等の耐久消費財は順調な売れ行きだが、衣料品、特に紳士衣料が低迷しており、個人消費の足を引っ張っている。繊維関係の生産は低水準。地場産業の木材・家具・仏壇等の生産も住宅投資の減少によって低迷を続けている。機械金属の生産はユーザーの設備投資の減少や最終需要の不振で操業度が低下しており、見通しは暗い。これらを反映して、雇用面は有効求人倍率が0.6 という低い水準で推移している。企業倒産は昨年並みの多さである。全体としては県内景気は「停滞基調」で推移していると表現できる。

 明石大橋の効果について、観光面は活況を呈しているが、その他の産業でのメリットは見えてこない。マイナス面を見ると、運輸業では関西方面からの業者の進出で競争の激化による価格競争が厳しくなっている。ただ全国の他の地域と比べると、徳島県内の景気は明石大橋開通によって幾分支えられていると言えるのではないか。

 交通の状況を本四公団と徳島県の資料からみると、明石大橋開通後の一日平均の通行台数は明石大橋で約29,000台でほぼ計画通り。大鳴門橋では一日平均約18,000台でこれは昨年の2倍に増えている。淡路島を素通りする本四間直通の自動車の台数は1万台弱で、これは本四公団の予測(17,000台)を割り込んでいる。大鳴門橋は瀬戸大橋(16,000台)の通行量を上回っているため、本四間の通路は明石〜鳴門間がメインルートになっている。

 徳島阪神間の高速バスは半年で71万人、一日平均で約4千人を運んでいる。昨年同期の徳島空港大阪便の利用者が15万人、高速船が35万人だった。それらと比較しても高速バスがたくさんの人を運んでいるのがわかる。

 主要観光地の入り込み客数は、徳島県東部では架橋記念館が昨年の2倍、阿波十郎兵衛屋敷が2.5 倍。県西部では脇町のうだつの町並みが2.5 倍。祖谷のかずら橋は1.5 倍の人を集めている。県東部と県西部は架橋効果で潤っているようだ。一方県南では昨年オープンした施設が多く、その際かなり増加した反動で前年を割り込んだところもある。県南の観光施設は夏場がメインで7〜8月は昨年を上回っていた。

(編注)

*「阿波十郎兵衛屋敷」 浄瑠璃「傾城阿波の鳴門」で知られる十郎兵衛関係の木偶人形や阿波藍関係の資料が展示されている観光施設。

*「脇町のうだつのまちなみ」 吉野川を上下する川船の交易地に栄えた商業の町脇町には、うだつや虫籠窓などを持つ独特の白壁の建造物が今も保存され、日本の道百選にも選ばれている。

*「祖谷のかずら橋」 平家の落人伝説や民謡の宝庫として知られる秘境祖谷にあるシラクチカズラでつくられた吊り橋。


平井/ 徳島県の経済は停滞基調であるが、明石大橋の効果もあって全国と比べてそれほど悪くないようだ。県南にはできたばかりの施設が多く、統計数字を読むときは斟酌して判断する必要がある。県南はこれまでやや停滞している印象があるが、徳島県はこのたび「カイフ交流推進会議」を設置した。その背景や意図は?


 海洋交流拠点構想を進める


小谷/ 十ヵ年の長期計画のなかで明石架橋後の地域の将来を考えている。これまでの県南の施策のおさらいをすると、明石架橋前には「三千日の徳島戦略」があり、産業面、観光面、基盤としての道路網を限定的、重点的に投資を進めてきたところだ。明石大橋開通後のビジョンとして平成9年度から徳島県を3つの圏域(東部、西部、南部)に分けて新長期計画がスタートした。これまでは徳島県全体の活力を高めるために人口・産業の集積の高い県東部に注力すれば、他の地域にも波及していくとの考えがあった。ところが右肩上がりの経済は終わり、人口も減少に転じ経済も減速している。

 海部6町の人口は2万8千人、これは藍住町に匹敵する。県はこれまで南阿波サンラインの開発、南阿波ピクニック公園、千羽ロープウェイを設置するなど、県南に力を入れてきたが、残念ながら過疎化という現実がある。これらの施設はある意味では自然志向・本物志向の今日に早すぎたのかもしれない。

 明石開通後、宿泊施設など一定の整備は整ってきた。過疎化と明石架橋という2つの要素から県南の振興策を考える時、シンクタンクに依存した従来型の振興策ではなく、地域の人たちの意見をくみ上げた実りあるものにしようと「カイフ交流推進会議」を設置した。委員のなかには行政関係者はもちろん、漁師や農家の人もいて、ワークショップでの交流も含め、官民一体となって前へ進めていきたいと考えている。

 カイフ交流推進会議が目指すところは、海をテーマにした海洋環境交流拠点づくりである。最近では、30億円を掛けた県のオートキャンプ場「まぜのおか」(海南町)ができた。それから第3セクターとして「ホテルリビエラししくい」(宍喰町)や遊遊NASA(海部町)もできた。これらの施設がもっと利用されるように海洋環境交流拠点づくりを目指してスタートに立ったところであり、今後、構想を具体化していきたい。

(編注)

*「海洋環境交流拠点」 南部圏域の中でも特に海部地域の豊かな資源である海を活かした交流の拡大と活性化のため、既存の文化・観光施設などのネットワーク化を進めながら、清流海部川を活かした海部自然村構想などを含めた「潮騒と清流の楽園カイフプロジェクト」の中核に据えられている徳島県の新長期計画のひとつ。海をテーマに学習、体験、交流などを盛り込んだ魅力ある交流拠点を整備する。このほか海部郡に関連する県のプロジェクトとして「野外交流の郷整備プロジェクト」「南部健康と生きがいの拠点整備プロジェクト」がある。


平井/ 岡田さんは海部商業協同組合の事務局長であり、カイフ交流推進会議の副座長を任され、四万十川を凌ぐ清流海部川を自慢する会「だあ海部川」の代表をされている。県内の他の町をみても、民間が活気あるところは町に活気があるので、地元の人たちの熱意ある取り組みは大切だ。商業、地域づくり、環境保全など多面的に地域を見られる岡田さんの意見を伺いたい。


待たれる高速道路ネットワーク


岡田 /最近は県南も施策的に注目を集めているが、県庁で会議をするときに「見離された地域海部郡からやってきた」と紹介していたときもあった。かつて四全総で全国1万4千キロの高速道路ネットワーク計画があったが、徳島県は横断道路が阿南市まで、高知県は安芸市までで、安芸市から阿南市は計画がない。

 海部郡には、海部郡地域振興懇談会という郡内に若者の定住を目指す約40名ぐらいの経営者が集まる組織があるが、その方々との会合の席で道路問題を議論した。「海部郡の位置は、大阪・神戸から見て、東京から見た伊豆の下田辺りに当たるのでうまくやれば観光地としての可能性はある。そのためには高速道路が必要だ」ということで高速道路の実現に動いた。その後徳島県側は小松島市までが整備区間になり、阿南市には都市計画ができた。高知県側は田野町から北川村までが整備区間、北川村から東洋町生見までが調査区間になった。今日も室戸岬で「世界へつながる田舎道」というテーマで会議をやっている。海部郡だけではなく、高知県東部と連携してやっていくために人の交流を進めている段階だ。

 もうひとつの活動として、「だあ海部川」という清流海部川を自慢する会がある。「だあ」とは地元の方言で「そうだ」などの肯定的な意味を持つ感嘆詞。道がよくなって人が来れば環境が悪化する懸念があるため、海南町では「海部川清流保全条例」(平成8年1月1日施行)をつくった。一度だめになった川は元に戻らないし、川をいい雰囲気のまま次代へつないでいきたいので、建設省が採用している「多自然型川づくり」を勉強している。私たちは「近自然工法」と呼んでいるが、その思想は、人間が自然をつくることはできないが近づけることはできる、川の工事は最終的に自然が完成させるというものだ。

 「自然の宝庫」「自然豊かな」「自然と共生」などと最近よくいわれるが、「自然」とは何だろうと再考する必要がある。金儲けのために自然を壊すようにならないよう他と違う観光のしくみをつくっていきたい。そのため、体験型漁業や農業など一次産業との取り組みをやっていきたい。役場に対する要望として、商業に対する認識を高めてほしい。作るだけではだめ、加工するだけでもだめ、売るということと一体となって、かつ自然環境を考えて活動していきたい。

(編注)

*「地域高規格道路・阿南安芸自動車道」 徳島県阿南市と高知県安芸市を結ぶ全長110 キロの自動車道。1994年に計画路線となり、95年には日和佐道路(阿南市〜日和佐町)が整備区間の指定を受け、用地測量を進めつつある。98年12月には阿南市内区間の7キロ、安芸市〜安田町の7キロがそれぞれ新たな調査区間に指定された。

 地域高規格道路は、高規格幹線道路を補完し、地域間の人や物資の交流を促進するほか、都心と空港、ICなどの拠点を結ぶ走行速度60〜80┥の自動車専用道路。徳島県南地域では幹線道路が国道55号線1本であったため、生活、産業、観光面からも高規格道路に対する地域の要望が根強かった。

*「近自然工法」 河川の護岸、道路の路肩などの土木工事に際して、コンクリートなどの無機素材に代えて植物や岩石など地域の植生、素材を活用して自然に近い状態を創出するもので、多様な生息環境が確保されることによって生息領域の連続性や生態系の維持が可能となる。近自然工法は、スイス、ドイツなどから広まった工法で、建設省では「多自然型」と呼んでいるが、生態系に対する理解や地元の協力、専門家の連携が必要とされ、緒についたばかりである。日本にも近自然工法の先駆けとして石積みの水制や水防竹林などの伝統的な治水法がある。


平井/ これまで診断士は、主として事業所や商店街単位などの経営診断で関わってきた。地域振興のような活動は診断士にそぐわないとの意見もあるが。


 診断士はコーディネーター


向井/ 官民のコーディネータ機能しか果たせない診断士の立場で説明する。診断協会の県支部では、これまで「外国人が語る徳島の企業」と題して論文大会や海外視察など支部独自の事業をやってきた。本年は明石海峡大橋ができ、県南には観光施設も整備されたが各施設や要素が連携しているだろうか──。そこでコーディネート機能を持つ診断士として、こうした施設を中心にして地域活性化に対して調査・報告事業ができないものかと本年度は取り組んでいるところだ。当初は第3セクターへの提言を中心に始めようとしたが、相手からの要望がなければ診断・支援に入っていけない。また中小企業診断協会は、一般に知名度が高いとはいえない。そこで、徳島県の新長期計画推進室というパートナーとともに調査事業について協働できる部分は共にやっていこうということになった。最近の診断協会各支部の報告書を見ても、地域づくりやまちおこしなどについて、診断士がデザインをし、実現化に助言している事例も少なくない。今日もフロアの診断士の意見を求めながらやっていきたい。個人的には県南の海でシュノーケリングをしているが、そこは色とりどりの熱帯魚が泳いでいる秘密の場所だ。平井氏も一年のうち数日を海部川で過ごしているという。そういうわけで県南を愛する診断士として何かができればと思った。



(2)スライド上映〜南阿波・海部の空と海


・由岐町です。海部郡6町のなかで国道が通っていない町であり、なかなか観光客が足を運んでくれないといった悩みがあります。写真は志和岐の漁港です。

(ポジ1「周囲を魚付林に囲まれた志和岐漁港」)

・海岸線が入り組みながら、はるか室戸岬をめざして百キロの海岸線が続く室戸阿南海岸国定公園の起点です。

(ポジ2「複雑な海岸線が幻想的に浮かび上がる室戸阿南海岸。陽光を受ければ散乱する光のオブジェとなる」)

・潮吹岩。満潮時には高さ30mの潮を吹き上げるそうです。

・鹿の首岬(かのくびみさき)です。陸の孤島といわれた阿部・伊座利へと道が通じたのが昭和30年代。この岬はかつての徳島藩がのろしを上げた場所でもありました。

・2年前に再開発された由岐駅です。

・その2階には、漁村の暮らしを伝える資料館があります。

(ポジ7「かつての漁村の日常が展示されている郷土資料展示室。1階には水槽展示ホール“ぽっぽマリン”がある」)

・港で釣りをしていたおばさん。「いい型のシマアジでしょう」。

・最近建て増しをされた民宿です。「まちおこしには馬鹿が必要じゃ」。75歳の社長さんから、まちおこしや観光について1時間半もお話を聞かせていただきました。

・海の男の安全を祈願する神社が随所に見られる、由岐は典型的な漁業のまちです。


 続いて日和佐町と行きたいところですが、由岐町内をめぐり、さまざまな人や場所を取材しているうちに日が暮れてしまいました。そこで、以前に取り溜めしたスライドを交えながら紹介します。海部郡のすべてを網羅できませんが、雰囲気がわかるものを集めてみました。ご了承いただければと思います。


・日和佐から牟岐に至る海岸線を走る南阿波サンライン。その第1展望台からコバルトブルーの海が見えます。ここは外ノ牟井浜(とのむいのはま)という海岸で、白い建物は田崎真珠の研究所です。南阿波サンラインの眼下に続く無人の海岸線のいたるところに魚付林と呼ばれる海岸照葉樹の森が拡がっていて、山から流れだした沢が直接海へ滝となって落ちるところもあります。陸からは魚付林を下り、海からはシーカヤックでたどる──探検できる海として楽しみ多い場所です。

(ポジC−1「ほとんど人影のない外ノ牟井浜。透明度の高い水と眼前にそそりたつ断崖が圧巻」)

・牟岐町の出羽島です。野口雨情の詩にうたわれた牟岐港の沖合4┥に浮かぶ亜熱帯の島です。集落を見下ろす丘の上にある小学校跡では映画のロケも行われました。島をめぐる一周の遊歩道の起点が出羽の港です。集落は独特の佇まいをし、田んぼの畦には桜とヤシが並んでいて、出羽島の情緒をいっそう高めています。

・遊歩道から見た海。水はどこまでも透明です。

・大池と呼ばれる池にたどりつきました。大きなごろた石のすぐ近くには太平洋の波が打ち寄せています。この池には、世界で4か所しかないといわれる「シラタマモ」が生息しています。ちなみにあとの3か所とは、南アメリカのリビア、インド洋上のマウリチウス、太平洋上のニューカレドニアです。

(ポジC−3「南国情緒あふれる出羽島の港。集落は港の周辺のみ」とポジC−4「海藻を干す作業。島には車がないので手押し車で運ぶ」、ポジC−5「遊歩道からの眺め。海底の石ころが数えられる」、ポジC−6「亜熱帯の風土のなかでは樹木も対話をしているように見える」)


・海南町の大砂海岸は、環境庁の「日本水浴場55選」にも選ばれた水のきれいな海水浴場です。無料のシャワーや更衣室、駐車場などが完備されています。浅瀬では数種類の熱帯魚も見られます。黒潮に乗ってやってきたものの日本の冬を越せない魚たちです。

(ポジC−7「波のおだやかな大砂海水浴場。水質はもちろんAA級」

・海南町から海部町を流れる全長約36┥の海部川です。平成8年には海南町によって海部川清流保全条例が施行されています。川の水で野点を行うこともあるという清流でアユ釣り師にとっても憧れの川です。海部川周辺には、ここの海や川が好きで移住してきた人も少なくありません。

・水晶の切り口のようにみずみずしい水の色です。黄昏にはカジカが鳴き、厭世観を感じさせるヒグラシの「ジィジィジィ…」という声が響くころ、静かな川の時間が訪れます。

(ポジC−8「桜の頃の海部川。水はすべるように流れ、雲は山肌に影を落とす」、ポジC−9「コバルトブルーの淵が印象的な通称三間岩」、ポジC−10「水晶の切り口のような流れ。しかしこの場所は道路工事で荒れてしまった」、ポジC−11「自転車で地図を頼りに海部川を訪れてみては?」)

・海部川の支流の母川です。体長1.5 mを越えるオオウナギとホタルで知られる小さな小川です。

・河畔林のなかを湧き水を集めて流れる日本の原風景のような川です。

(C−12「日本の里の川の原風景をとどめる母川のやさしい流れ」

・海部川の河口には、全長4┥にわたって続く白砂青松の大里松原があります。波の音を聞きながら、胸一杯に潮風を吸い込むと、ついうとうとしてしまいます。いのちの洗濯とはこういう時間のことでしょうか。

(C−13「大里松原ほど雄大な気持ちにさせてくれる渚はない」

・海部川河口とともに全国有数のいい波が立つという、宍喰町のすぐ隣の高知県東洋町の生見海岸では、プロサーフィンの世界選手権大会が行われました。

(C−14「サーフィンのメッカ生見海岸。“この波を逃すと次はない”とサーファーは思う」

・砂浜では浜昼顔がかれんに咲き乱れています。小さな花もたくさん集まると大きな一輪よりも魅力的です。その一つひとつがかけがえのない存在であり、小さな宝物がいっぱい詰まった南阿波を象徴しているかのようです。

(ポジ22「白浜海岸に咲き乱れる浜昼顔。その一つひとつが小宇宙」とポジ24「青い海の南阿波・海部のパンフレット」)

・近年では、宍喰町のホテルリビエラししくい、海部町の遊遊NASA、海南町のまぜのおかをはじめ、観光施設が相次いで開業しました。観光パンフレットの基本のトーンはやはり青です。施設の活用は地域の活性化につながることはいうまでもありませんが、県南の活性化とは何なのか、これから約1時間、パネリストやフロアの皆さんとじっくり深めていきたいと思います(平井)。



(3)パネル討論


平井/ 統計上で他に何か注目すべき数字や事例は?


観光ルートに組み込まれない県南


大谷/ 先ほど、うだつの町並みの観光入り込み客数が昨年の2.5 倍に増加したと言ったが、これはほとんどが大型観光バスの団体客でマイカーなどの個人客はそれ程多くないようだ。県外の旅行エージェントが組んだ明石大橋を通って四国観光をするルートの中に脇町が組み込まれているわけである。これに対し、県南は四国を巡る観光ルートとしてエージェントが組み込みにくい位置にあり、団体客ツアー対象の観光パンフレットにはあまり県南は載っていないようだ。これは、過去の観光客の入り込み状況からも伺える。県内の観光地の過去3年間の入り込み客について県内客と県外客の構成割合を見ると、鳴門をはじめ県東部は県外客53%、県内客47%と県内県外が半々、剣山をはじめ県西部は県外客61%、県内客39%と県外客がかなり上回っている。これに対し、県南部は県外客43%、県内客57%と県内客の方が多くなっている。このように県西部と県南部では観光客の客層が異なっている。


 できることから始める


小谷 /道路の整備を待って、それから振興策を考えるのではなく、できることから始めるべきだ。海部にはスライドで見たような自然がある。これは海部の貴重な資源であり、これを生かすことが大切だ。道路整備も必要であるし、自然環境を損ねない振興方策を真剣に考える時期にきている。


人の温かさでリピート 地域のスタッフ必要



岡田/ 脇町のうだつのまちなみには登録されたボランティアの案内人がいる。地域の人々の暮らしがそこにあり、観光客との交流があってこそ活かされる。自然環境の良さに加えて、人の温かさでリピートしていただけるかどうかがポイントとなる。ただしこうした交流には地域のスタッフが必要であり、ボランティアだけでは限界がある。21世紀は環境と開発を同じベクトルに向ける時代だと思うが、それはなかなか難しいかもしれない。しかし、人間も生態系の一部であることを自覚するところから出発する必要はある。


平井/ ハードも必要だが、広域的に散らばっているそれらの連携、あるいは観光客と地元の人たちの利害の調整という意味で、何らかのしくみづくりが必要だが、診断士はどう関わっていくのか?


 「海部郡全体の支配人」


向井/ ヒントは2つある。四国の小さな町(愛媛県双海町)で、「夕日が見える町で食事をしよう」「夕日が見える町で音楽を聴こう」などと売り出した事例がある。調べてみると、商工会連合会が地域活性化対策事業としてやっていた。全国に2千8百の商工会があって、各都道府県に一つずつ連合会がある。それぞれがまちおこし事業、物産を商品化する事業、地域振興支援事業などをやっている。県内では日和佐町が平成9年に地域振興のためにビジョン策定事業を行い、実現化事業に入っている。藍住町では平成9年度からの実現化事業で観光協会を設立した。各商工会単位でさまざまな試みがあり、成功もあるが失敗もある。そうした事例を研究してそれぞれのノウハウを研究してみるのも、ひとつのアプローチだろう。中央の開発コンサルティング会社などに依頼すると、予め用意されたひな形に当てはめた画一的な提案になるせいか、実現化に失敗する事例は少なくないらしい。やはり地元の熱意があって、その人たちと連携を深めながら地域の特性を尊重して継続してやっていけるかどうかに成否がかかってくる。

もう一つのヒントだが、ある町には和風のホテルがあり、別の町に洋風のペンションがあったとする。そこである町で宿泊施設について尋ねると、その町内の施設を紹介するため、自分の泊まりたい宿とイメージが違ってくる可能性がある。これでは客は二度と来ない。自治体の境界を取り払って海部郡全体をひとつの利益共同体として考える「海部郡全体の支配人」がいて、海部郡全体のソフトを考える。それがリピーターづくりには不可欠だ。


平井/ フロアから提言をいただいている。説明をお願いしたい。


 湯布院に学ぶ情報発信の重要性


会場1/ 県南のすばらしさをどう発信するかが大切だ。よいと思っていても、それを知らせないと意味がない。湯布院の例では、著名人を活用したり、テレビ、新聞、雑誌などさまざまなメディアを使って情報を発信しているため、ひんぱんに目に留まる。そうなると当然に広まっていく。多少金がかかっても、旅費負担で関係者を招くなどしてみてはどうか。県南の場合、素材がいいので、そのまま見てもらえれば十分可能性はある。


平井/ テーマが大きいので方向性を示すだけでも大変ではないかとのご指摘(質問用紙)をいただいている。診断士がとりあげるテーマなのかという懸念はあるが、逆に診断士がこのテーマにどう関わっていけるかを考えてみたい。さらにもう一点、県南は不便さのなかに魅力があるとのご意見をいただいている。例えば、高知県の四万十川に行くには外国に行くぐらい時間がかかるが、憧れの川として全国から観光客が絶えない。この事例にヒントがあると思うが、さらにご意見を発展させていただきたい。


会場2/ 私は県南部の出身で、自然がそのまま残っている環境がいいと思う。そこを好きだという思いが結集して活力になれば、地域が輝いていけるだろう。ただし、経済的に豊か、収入が多いという基準だけでその効果を測定すべきなのかどうか、また「飛翔できるか」というテーマが、経済的な発展だけをさすのかどうか迷いがある。経済的な豊かさだけをめざすべきか、あるいは今のままの自然の豊かさのなかで暮らしていくのがいいのか議論が必要だ。


 地域の中に目線を移して


小谷/ 活性化とは何かを考えると難しい。係数管理や経営分析など定量化できるものが対象かもしれないが、所得の伸びに価値を見いだすのが難しい時代になったのではないか。都市にはIターン志向者がたくさんいる。その人たちは「収入が減ってもいい」と思っており、潜在的には少なくないと考えられる。湯布院をみても人口は増えていないし、日本全体としてもこれからは増えないだろう。例えば徳島県でも、5年前の平成2年の国勢調査から比べると徳島市周辺で人口は1万人増えているが、郡部で同じ数だけ減っているため県全体としては変わらない。従来の所得重視の考え方とともに、四国八十八ケ所めぐりをはじめ、安らぎを求めて訪れる人たちの精神的な領域、ナイーブな部分も評価していく必要があるのではないか。

 私は上勝町、勝浦町という中山間地域も担当しているが、上勝町の参事は「活性化とは地域の担い手を育てることだ」という。高齢者が多いこうした地域で10年後の人口をシミュレーションすると、人口減少と若者離れによって地域が衰退する姿が見えてくる。そこでどうお金を落としてもらうかを考えると、本腰を入れたマーケティング的発想が必要となる。景気が悪いから巨額の「真水」が必要などという全国ベースの議論ではなく、地域の中に目線を移していかなければ、海部郡の活性化を見いだすことは困難だろう。

(編注)

*「上勝町」 徳島市から勝浦川を約1時間遡った山間にある人口2千3百人の小さな町。近年は、料理のつまもの「彩」の開発や、しいたけの菌床栽培など産業振興をはかりながら、月が谷温泉を中心に棚田などの観光資源を掘り起こしている。「まちづくりは人づくり」を合言葉に「1Q運動会」と称する各地区のまちづくり組織を柱に官民一体となって地域おこしを実施している。


 活性化とは?


向井 /活性化が錦の御旗のようにいわれてきたが、単に経済活動の活性化のみを求める時代は終わったと思う。5〜6年前にある経済評論家が「地球レベルで考える市民が増えた。大量消費や大量廃棄ばかりでは幸福が得られなかったことに人々が気づきはじめた」と述べた。海部郡の地域おこしを考えるとき、心を癒すとか精神を遊ばせるというところに活性化のヒントが隠されているように思える。活性化とは収益を上げることのみではないことを確認したい。


 経済的な裏付けも必要


大谷/ 経済ばかりが価値基準ではないという意見には賛成だが、異論もある。神山温泉の支配人に聞いたことがあるが、彼は大阪から移り住んで神山町で田舎暮らしがしたくて農業を始めたが、作業は大変で生活が成り立たない。とにかく現金収入が欲しいということで支配人に応募した。お金ばかりが指標ではないということは理解できるが、地域のスタッフが必要という岡田さんの意見のように手弁当で活動する人たちが必要だ。しかしそうした人も高齢化すると活動が難しくなる。都市部から若い人に手伝いに来てもらうことも必要になるが、そうしたボランティアだけをあてにするのは難しいだろう。地域の存続のためには経済的な裏付けが必要だ。その辺りをどうするかを議論したい。


環境保全と開発の両立をめざす近自然工法


岡田/ 今の時代はお金が基準だ。そうした経済構造を抜きにまちづくりは語れない。やはりお金が儲かることは前提だ。そうしないと地域を維持することもまちづくりも難しい。私は18年間東京に住んでいた。東京の生活はお金がたくさんかかる。帰ってくれば給料は半分ぐらいになったが、都会での30万円と田舎の15万円とどちらが暮らしやすいかと尋ねられたら、私の経験からすると田舎の15万円の方が楽だと思う。

 私は年に1回、スキーとアルプスに山登りにいく。そのために道路が整備されなければ不便だ。高速道路が完成するまで10年かかるという話があったが、日和佐道路は整備区間に入って3年経ったので、あと7年ぐらいだろう。先程例にあげた近自然工法は、川の工事だけではなく、道路づくり、山づくりにも応用すべきだ。近自然工法はまだまだ過渡期で、設計する人、工事をする人、地域の人たちが自然と人間との関係を掘り下げて考える必要がある。道路をつくって山を削る際に壊した生態系があれば、その地域にもともとある植生を大切にしながら新たに復元すべきだ。多種多様の生物が住むためには複雑な境界線が必要とされる。川の水辺は魚をはじめ生物の宝庫だが、コンクリートで直線化すると生物は住めなくなる。公園の芝生の広場も見た目はきれいだが、生物は4種類ぐらいに減ってしまう。そこに石を置いたり、高い木、低い木を配置すると生物が住みやすくなる。

 高知県に近自然工法の先駆者がいて時々話を聞きにいく。その人もスイスに行って目からうろこが落ちたと言っていた。21世紀は環境と開発を同じ方向性で考えることが大切だ。世の中が経済戦争やバランス・オブ・パワーの時代から脱却する時期にさしかかったのではないか。環境保全と開発の両立をめざす近自然工法の思想は新しい体系の軸になる考え方だと思う。


 環境の価値を測定する意味


平井/ 神戸大学の鷲田豊明教授(環境経済学)に話を伺う機会があった。「あなたは環境を保全するためにいくら払うつもりがあるか」と尋ねて、その環境の価値を評価する仮想調査(CVM)を行っている。その調査によると名古屋の藤前干潟は2,960 億円にもなるという。一方、高知県の四万十川でも同様の調査があって、その水質を守るための価値が6,150 億円と評価されている。こうした調査は、経済活動に乗らない環境の存在価値を評価することによって、自然環境と社会活動の調和を見いだそうとするもので意義はあると思う。

海部郡内に相次いで創業した第3セクターに話題を変えると、地域振興のため、また地域サービスの一環としてやっているので必ずしも黒字が目的ではないと思う。しかしそれらの施設が活用されればさらに価値が高まる。その活用法を考える時、診断士が関われると思う。開発と保全を両立させていくという提言があったが、その流れを商業に応用できないものか。商店街を例にとると、地域に自然発生的に発展してきたが、背景となる自然環境や社会条件の変化で、その背景が変わり、ニーズが変わると当然マーケティングも変わっていかざるをえないし、それが求められていると思う。

 県南では観光バスはほとんど見かけず、自家用車が多いとされているが、フロアから「県南観光のネックになっているのは道路だ」というご指摘があるが説明を。

(編注)

*「CVM」=contingent valuation method (仮想評価法)。直接の利用につながらない環境の存在価値(非利用価値)を住民の支払い意思の評価から試算するもので、アラスカでのエクソンバルディーズ号による油濁汚染の損害賠償額算定の基礎となった手法。


会場3 県南には美しい海岸線があってよくドライブに行く。吉野川北岸に住んでいる生活者として意見を述べる。徳島市内の渋滞がひどい。県庁を中心に国道55号線の渋滞で余分な時間がかかってしまう。そのため、県南は思っている以上に遠く感じられている。


 欲しい一元的な情報


会場4/ 夏に家族釣れで県南へ行きたいと思うが、日帰りは運転がきつく1泊したい。ところがシーズンにはホテルは満室、民宿はどこがいいかわからない。問い合わせするにしても、自治体の境界を越えて宿泊の空き室情報などが欲しい。県外だけでなく県内の観光需要も相当あると思う。今の施設を効率よく使う方法を考えるべきだろう。


向井 今回の事業では海部郡のすべての宿泊施設を対象に、徳島県、診断協会県支部、それに徳島県旅館業環境衛生同業組合の三者連名で実態調査を行って、宿泊人員のキャパシティや宿泊客の満足度、観光客の要望などを把握しようとしている。その結果を踏まえて実質的な提言をしたい。実現化に向けては行政の支援が得られるかもしれない。後々のフォローを含めた提案を行っていきたい。


 3セクの赤字公表は疑問


大谷/ 美馬郡では、郡内の町村が集まって広域連合という組織を作って観光情報を一元化してやっているようだが、そういうものが海部郡にもできないか。第3セクターの観光施設についてであるが、行政がつくった施設を借りて運営しているが、その管理運営にかかる費用から収入を差し引くと赤字が出るため、行政が赤字補填しているケースが多い。赤字が公表されると、観光客にとってはサービスの低下が起こるのではないかなどを心配して来なくなる。イメージが悪くなるので、赤字を公表するのをやめたらどうか。管理運営にかかる費用の一部は行政側のコストになっているのだから、補填するならわざわざ赤字を公表する必要はないと思う。イメージを落とすことが地域の足を引っ張る。ますます観光客が来なくなるという悪循環が生じる心配がある。


 イベント・祭りがきっかけ


会場5 /今年の夏の一日を振り返りながら考えた。朝徳島市内を出て、昼頃に日和佐町に付いて海亀祭りを見たら子どもは喜んだ。しばらく遊んで食事をし、それから大砂海岸(海南町)で2時間ぐらい海水浴をし、遊遊NASA(海部町)の風呂に入って家に戻ると夕方だった。イベントがあるから県南に足が向く。ただしイベントだけではつまらないから、海を見たり、施設を利用したりして楽しい1日が過ごせた。一般行楽客にとっては、イベント、祭りが魅力的だ。海部郡内には、話題に取り上げられるイベントや祭りがあるように思う。それがきっかけとなって宿泊や自然体験につながればと思う。


平井/ 最後にパネリストから一言ずつ。


 海部に新たな関係を築く


小谷/ 未だ道路が整備されていない状況下で、活路を見いだしていかなければならない。利用者ニーズに合わせてシーズン毎、目的別、1泊型、長期滞在型などきめ細かく情報を提供していく必要がある。できれば、民間・第3セクターを問わず宿泊施設の空き情報を提供していければいいと思う。

 例えば、海部川河口をふさいでいる砂州が大雨で流されると、有名な「海部ポイント」でチューブが巻く。それが全国津々浦々のサーファーのネットワークで伝わっていく。かつて海部郡とサーファーの出会いは不幸な時期があって、マナーの悪いサーファーと地元の間でトラブルが絶えなかった。ホテルリビエラししくい前の国道の不法駐車に対して駐車場を整備しようとしたが、「ああいう連中に行政が力を貸すのか」との町民の声もあり、行政として思い切った取り組みができないのが現状だ。

 しかし外から入ってくる人たちを地域にとってマイナスだと排除するのではなく、時間とともに良好な関係を築いていくことも必要かなと思う。確かに地元の受入れは大変だが、歩み寄ろうとする人たちの努力を無にしないよう、今ある施設がもっと活用されるよう県として取り組んでいきたい。そのために診断士の皆さんの力も借りることもあるかと思う。

(編注)

*「海部ポイント」 海部川河口にある全国有数のいい波が立つ上級者向きのサーフポイント。1998年の秋は特にいい波が立ち、世界中からサーファーが集まった。


 南阿波・海部にエールを送る


大谷/ この地域は自然が売り物だが、自然で金儲けができるか、自然を壊さないで経済を維持できるかどうかがポイントだ。この面についての困難さは湯布院でも生じていると聞く。ぜひがんばっていただければと思う。


岡田/ 海部郡について議論いただいてお礼を申し上げる。海部に住んでいく人間として、広域的な連携はぜひ必要だと思う。


向井/ 診断士も、まちづくり、地域おこしの仕事もできるということをアピールさせていただきたい。商工関係だけではなく、労働省、厚生省、農水庁など他の分野からの仕事もコーディネーターとして積極的に受けられるようにしたい。


岡田/ 一言付け加えたい。こちらで住み着いているローカルサーファーのなかには、海岸の清掃や水質調査を行ったり、海部川上流の森に植林をしたりしている。サーファーも地元の人たちといかに付き合っていくかを模索しはじめたところだ。


平井/ 今日は「県南観光商業は飛翔できるか」と題して議論を進めてきたが、海部郡の強み、宝物は何かを考える時、室戸阿南海岸の青い海や海部川といった要素はかけがえのない資源であり、心の癒しを求めて県南地域を訪れる人たちがこれからますます増えることが予想される。その時にそれぞれの観光資源や施設がネットワークとして連携していく必要がある。

 従来型の観光は単なる「見る」「見られる」の関係だったが、ここで提案されたのは新しい「観光」の考え方。地域の人たちがいきいきと暮らす姿、それに観光客が共感して訪れ、交流が生まれる。その結果、地域が潤う。例えば、農林水産業の体験を組み合わせたり、自然に影響を与えず自然の英知に触れるといったエコツーリズムの需要は今後ますます高まるだろう。何をどのような形で情報発信していくのか知恵を絞りたい。

しかし現実に目を向けると、海部郡6町の人口は減少を続けている。特徴である自然環境を保全しながら各産業の活力を高め、持続的な地域づくりを進めていかなければならない。それを観光商業という単語で定義して支援していこうとしているのが、今回の中小企業診断協会徳島県支部の事業と考える。南阿波は、活性化と環境保全を同義語で捉えられる可能性があり、必要なハードの整備とそれらを使いこなすソフトをつくるために、地域住民、行政、専門家が協働(パートナーシップ)で取り組む必要がある。

 ほとんどの第3セクターが赤字といわれているが、地域の雇用の確保や、民間が手を出さない不採算部門で地域振興のために赤字もやむをえないという意見もある。しかし、つくることが目的ではなく、つくってからの活用がいっそう大切で、多くの人に親しまれてこそ価値がある。

 一方で、政府の施策に目を転じると、従来は公共部門が対応してきた分野に民間企業の資金や技術・ノウハウを導入し、社会資本を整備しようという動きがある。行財政改革の行方を含め、行政が民間のサービスを購入するということで、今後は民間ソフトが重視されることは間違いない。

 そうした背景の中で、何をどんな方法で提供すればいいのか。ここで官民をつなぐコーディネーターとして中小企業診断士の持つソフトの領域に入ってくる。

 診断士はこれまで公的診断を柱に、個々の事業所や商店街、組合等を診断・支援の対象に業務を行ってきたが、今後はマーケティング等の専門家集団として、ニーズをくみ取り、それにいかに応えるかを提言することで、積極的に地域づくり等に貢献していく必要があるし、またそれが求められている。このことは地域の活性化に資することはもちろんのこと、診断士にとっては新たな地平線を切り開く絶好の機会となるのではないか。県南の将来にエールを送りたい。


(編注)

この報告書における、地域を表す用語の定義

・県南──徳島県人が日常的に徳島県南部地域を指す時に用いる通称。阿南市以南の海沿いを指す場合が多い。

・南部圏域──徳島県の新長期計画で徳島県を3区分した圏域の1つ。那賀川流域の那賀郡と阿南市、それに海部郡を含む。行政用語で一般には用いない。

・海部──行政区画の6つの町からなる海部郡を指す。県南とほぼ同義語と思われるが、一般的な「県南」に比べ、主体(地域からの発信)が明確になる感じがする。

・南阿波──海部とほぼ同地域と考える。県内ではあまり用いないが、観光として県外から見た場合、「徳島県南部」より「南阿波」が親しみやすいし、「南阿波サンライン」「南阿波ピクニック公園」も存在する。インターネットでの情報発信の主体として表示するには適切であろう。この報告書の表題を「南阿波・海部」としているのは、訪問者と地域の視点を一致させるためであることは先に述べた。

・室戸阿南海岸──阿南市から室戸岬に至る国定公園に指定された海岸線。海部郡の海岸線がその中心となるが、それよりは範囲が広い。

・南四国──高知県と徳島県を合わせた地域の総称であるが、感覚的には黒潮(太平洋)に面した地域であろう。